第四話

授業を進める直江を見るのはなかなか楽しい。いっつも家では気の抜けた顔で気の抜けたことを言ってるから、日本史を真面目に語るのがなんかおもしれぇ。

「じゃあ来週この範囲のテストをします」

直江のテスト宣言に「えー」という声がちらほら上がる。生徒達の控え目な批難をスルーして、直江は教科書を閉じた。

「しっかり勉強してくるように。じゃあ午前の授業は終わり」

ニコリと笑うとそれだけで女子達のテンションが上がるのが分かる。俺には胡散臭いようにしか見えない。

選択制の日本史も終わり世界史の奴らも帰ってきた。先生ーこれ分かんなーい、という女子一人一人に丁寧に教える。モテる男は例え子供でも女を雑に扱わないのか。女子達も喋れただけで嬉しいのか、本当に幸せそうに笑っていた。







昼休み譲とプリンを食ってるとうぜーのが絡んできた。

「仰木ぃ、最近放課後付き合い悪いし忙しいみてぇだな?女か?ついに彼女いない歴=年齢から脱したのか?」
「うるせー」
「やめなよ千秋。高耶はモテない分けじゃないよ、顔キレイだし。ちょっと目つきが悪すぎて怖がられてるだけで」
「成田それ褒めてんのか?」

俺の席を囲んでワイワイ始めた二人は昔からの幼馴染みだ。放課後はよく遊びに行ったり、頭の良い二人による俺の為の勉強会が行われたりする。でも最近はその誘いを担任のために断っていたため、千秋に強く言い返せない。

「よし!今日は成田ん家でゲームやんぞ」
「んじゃお菓子ないからコンビニ寄ってね」

プリンを食べ終わった譲が今度はワッフルに手を伸ばしながら俺の顔を見た。

「高耶、強制参加だかんね」
「はいはい」

今日も行く約束してたんだよな。ちょっと申し訳なく思いながら、直江に行けなくなったという旨のメールを打った。




「つーか仰木、実際どうしたんだよ。厄介ごとにでも巻き込まれてんのか?」

譲ん家のでかいテレビ画面を見ながら千秋が問いかけてきた。

「なんかあったんなら言えよ。お前とは違い俺様の高い偏差値の頭で考えてやっから」

なんかカチンとくるが、こいつなりに心配してくれてんのが分かる。
けど心配するようなことは起きてないんだ。普通の先生と生徒の範囲を越えてるっていうのはあるが、それは悪いように越えてるんじゃない。

「期待に沿えなくて悪いが
、別に本当になんもねーよ」
「じゃあ彼女?水臭いじゃないか高耶!俺たちにも紹介してよ」
「彼女もできてねーっての」

あんな図体のデカイ彼女がいてたまるか。…あれ、今なんで直江を思い出した。
それを言うならせっせと飯作ってやって俺の方が、ってますます何言ってんだ俺。しっかりしろ。



そういえば今日あいつは何食べたんだろう。何か作り置きでも作ってくればよかった。
携帯を開くと一件メールが入ってる。直江からだ。

『高耶さんのご飯が恋しい』

何こいつ…か、かわいいな。じゃなくて何だこの甘ったれは。
よし、しょうがねぇから明日はあいつの好きな揚げ足豆腐でも作ってやるか。
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